傀儡音楽

かいらいおんがく

作詞家になった福田花音さんのことを思いながら

まずは福田花音さん、アンジュルムご卒業おめでとうございます(今更ですみません)。
ハロプロの歴史の中でも十二分に爪痕を残された方、後世まで語り継がれる輝かしいアイドルの一人だったと心底感服しております。今後のご活躍に期待しつつ応援しています。

福田さんが作詞家になるって聞いて、反射的にそりゃいいね! って思ったんですよ。かにょんならやれる、って思った。素直に期待したいと思った。頭のいい人だし、緩急をわきまえてるし、かつエキセントリックで人を引き付けるところも持ってるし、何よりハロプロ愛が強い。彼女だったらつんく♂Pに勝るとも劣らない、ハロプロ楽曲における詞の世界を築き上げてくれるような気がしたんです。素直に。

で、福田さんの作詞の処女作「わたし」を聴いて、歌詞を読んで。

 
ものすごく、がっかりしたんです!
これのどこがハロプロ楽曲なの!? と。
 

そもそもハロプロ楽曲の詞って、ちょっと過剰なところが持ち味だと思うんですよ。過剰なところというか、狂気みたいなもの? つんく♂Pが過去言っていた通り、どの作品にも必ずひとつやふたつ、フックになるところ、否が応でも印象に残っちゃうところがある。それを覚えてて、全体の中でそこが出てくるのを無意識に心待ちにしてしまって、聞くごとに全体が好きになっていく……みたいな狂気の魔法がかかってる。

しかも押しつけがましくない。遊びがあって楽しめる。ものすごくバラエティ感があって、全体を通して飽きずに楽しめるようになってる。ハロプロ楽曲の詞を俯瞰して見ると、総じてそんな印象を受けるんですね。

自分、好きでアイドルの曲を年間にわりとたくさん聴いてる方だと思うんですが、アイドル楽曲の歌詞ではっとさせられること、本当に少ないんですよね。アルバムとか聞いてると、曲自体の没個性ぶりもあいまって、聴いても聞いても1曲たりとも印象に残らないアルバムっていっぱいある。たとえばアルバムにカラフルなんとかってタイトルがついてるのに、聴いてみたら全部の曲がパールピンクだった、みたいなこと何度もあります。そして、ハロプロのアルバムにはそれがない。

ちょっと話がそれちゃいましたが、「わたし」にはそういう狂気が感じられなかった。バラエティ感も感じなかった。あの曲のテーマをつんく♂Pが表現するとしたら、サビの歌詞だけ残して、あとは全部違うことを歌わせると思うんです。「本当に私に気づいてくれてる?」っていうメッセージは1行2行に集約させて、ほかのいろんな描写を詰め込んでくる。福田さんの「わたし」はひとつのテーマをこれでもかこれでもかって、冗長に押し付けすぎなんです。

だから「わたし」にはがっかりした。福田花音さんは今まで、どんな風にハロプロ楽曲の詞を分析してきたんだろうって疑ってしまった。もしかしたら何にもわかっちゃいなんじゃないかって悲しくなった。期待できないのかもしれないと思った。

そして……、そして、繰り返し「わたし」を聴いているうちに、これはこれで楽しいし、新しい、今までのハロプロ楽曲になかった世界観なんじゃないか、って思い直したんですね。悪くない、全然いいな、って。

つんく♂Pのハート中にものすごくロマンチックな女学生が住んでいることは間違いなくて、どうしてこんなにせつなくて愛おしい言葉が次々に出てくるんだろうって毎回感心させてもらってるじゃないですか。つんく♂Pのっていう人の人となりとも相まって、愛くるしい女の子の気持ちと不安と狂気の渦巻く広大な宇宙が同居してる。でもその女の子はあくまで非実在の女の子で、ハロプロ楽曲の世界観成立のために存在しているっていっても過言じゃないわけじゃないですか。

「わたし」の主人公は違う。福田花音さんと完全にイコールではないかもしれないけど、かなり近しい、笑ったり泣いたり苦しんだりやさぐれたりしながら毎日頑張ってる、ホントのアイドルの女の子なわけですよ。今までのハロプロ楽曲には、こんな私小説的な世界観って存在しなかったわけで。福田花音さんはそれをもちろんわかっていて、今までに来れられなかった垣根を軽々飛び越えて見せて、到達できてなかった場所をあっという間にハロプロの陣地に加えて見せた、って言えると思ったんですね。これって事件じゃないですか。

だから今は、福田花音さんの次の作品が楽しみで仕方がない。チャオ ベッラ チンクエッティの「どうしよう、わたし」はもちろん楽しみだし、わたしシリーズでないその次の曲にも期待が高まってしょうがない。だってハロプロを愛して、ハロプロ楽曲を愛しつくした福田さんが、その上で「つんく♂Pじゃできない、私が表現すべき世界」を詞にしてくれるんですもの。

ハロー!プロジェクトは何という強力な武器を手に入れたのか、と思っちゃいましたね。ハロプロは、福田花音による作詞という資源で、あと十年は戦える(マ)。

福田花音さん、作詞家デビューおめでとうございます。本当に心から期待しているし、最初から俺の期待通りの作品が聞かせてもらえなくったってそれは俺側の都合ですし、何より全然楽しみにしています。応援しています。作詞家になってくださってありがとう。

 
……ってここまで書いて「福田花音さんは外部にはバンバン歌詞提供するけどハロプロには暫くの間おあずけ」だったらどうしよう。それはそれで面白いですけど。