傀儡音楽

かいらいおんがく

音楽好きの友人は皆アイドルを聴いているのに

実は、地下アイドルまとめブログが新しく総合サイトを作り、コラムとかも掲載し始める……と聞いてエントリを書いて投稿したことがあります。2017年5月のことです。
今は2018年1月なのですが、半年経ったということでしれっと自分のブログに載せちゃいます。
以下がその文章なのですが、一部あとから思いついた理由を補足で追記しています。

 

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現在は没交渉になっている方も多いですが、昔、mixiというSNSでたくさん友達を作りました。

彼らの共通点は皆、音楽が大好きであるということ。10年前の彼らは、毎週のようにタワーレコードに行ってはCDを買い、夏になればフェスに行き、自分のブログにCDレビューやライブレポを書いていました。彼らと私の違いは、彼らは主にJ-POP、邦楽ロックと呼ばれるジャンルを好んでいましたが、私がそれ以外に、ハロプロをはじめとしたアイドル歌謡曲を愛していたということです。私がアイドルのCDを絶賛してみせると、嫌な顔をすることは決してありませんでしたが、ちょっと呆れたように、特殊な趣味を持ったんだねというスタンスで微笑んでおりました。

2017年の彼らのほとんどは、アイドルを聞いています。当時ロックミュージシャンのCDを聞いてアイドルCDを聞いていなかった友人も、みんなアイドルCDを聞いています。週末にアイドルイベントに出かけています。あの頃は俺のことを特殊な趣味の人だと笑っていたのに!(笑)

でもそうなる理由もなんとなくわかるんです。

 

  • ロックミュージシャンはシンガーソングライターでもある才能あるフロントマンが歌っていることが多く、都合、見た目の良さには係わらないことも多いが、アイドルは必ず見た目が可愛らしい。
  • ロックバンドのメンバーはしかめっ面や恍惚とした顔で楽器を演奏しているだけのことが多いが、アイドルは笑顔でダンスを見せて楽しませてくれる。一糸乱れぬ揃った動きで圧倒させてくれる。
  • ロックミュージシャンは何割かの確率でMC下手だったり、ほとんど喋らずにセットリストを淡々とこなすだけだったりするが、アイドルはトークで楽しませてくれる。得てしてサービス精神が旺盛なステージが多い。
  • 現在のアイドル楽曲は、友人たちが愛したロックミュージシャンが作っていることも多い。
  • 現在のアイドル楽曲は、すでに確立し素晴らしいと評価されたレガシーの音楽を下敷きにしていることが多く、美味しいところ取りであったり郷愁を誘ってきたりする。
  • ロックミュージシャンは音楽のジャンルによってフィルタリングされることが多いけれど、アイドルはそれに左右されず、どんなジャンルの音楽でも演じることができる。都合、アイドルのアルバムCDはバラエティに富んだ、単調さからはかけ離れた作品になっていることが多い。
  • 逆に音楽のジャンルを絞り込んだアイドルグループもあって、特にライブの盛り上がりが激しいグループの場合は、モッシュ&サーフ&ダイブの熱狂もロックバンドに引けを取らないし、むしろ若々しさで上回っていることもある。
  • アイドルは色んな意味で「新鮮」であることが多い。

つまり、美味しいところが詰め込まれてるんですね。ラーメンで言うところの「全部入り」なんです。音楽を楽しむという行為において、とても効率がいい。

この「全部入り感」は最近ヒットするもののキーワードでもあります。効率良く多種多様なものが楽しめるという優位性。フェスなんてまさにそうですよね。数日でたくさんの音楽に出会える。自分の都合で見ても見なくてもいいし、タイムテーブルに合わせてギッチギチのスケジュールを楽しんでもいい。ぎゅっと詰まった魅力がある。

このぎゅっと詰まった効率性は、グループとしての歴史の濃さにも直結しています。ロックバンドのメンバーの歴史にも脱退、加入、休止、解散、復活などがありますが、アイドルはそれに加えて発表から卒業のじらし期間だの、メンバーの誰と誰とが仲がいい悪いだの、加入した子の成長だの、前列メン後列メンの入れ替えだの、移籍だの合併だの、握手会やTwitterでの対応だの、追っかけている側の勝手な妄想も交えての有象無象の事件で歴史をどんどん彩ってくるんです。一般的には「若い女の子が若い間に数年やって終わり」というスパンであることも相俟って、グループとしての歴史の密度が濃い。

そんな詰め込まれた美味しさのあるアイドルに、邦楽ロックファンが集まってくるのも、わかる気がします。CDが売れなくなって久しい2017年においても音楽を聴くことを趣味にしている者ならば、一組や二組は、CDを楽しめるお気に入りのアイドルグループを持っていることでしょう。

 

(以下追記部分)
もうひとつ思いついたのが、「ロキノン的解釈の限界に来た」という理由でした。

当時は「ロッキングオンジャパン」とか「音楽と人」とかって雑誌を買って、ロックバンドのメンバーが自己の人生や持論をとくとくと語る長文インタビューや、ライターの考えるこのCDがいかに素晴らしいかを語るコラムを読んでいた人も多かったと思います。それらを読むことで、自分が聞いているロックバンドがいかに新しくいかに素晴らしいのかを確認したかった。音楽について意識的でない友人が選んだCDよりも自分の好んでいるCDの方が評価の高い作品なんだと思うことで、それを選んだ自分も少し誇らしい存在であると思いたかった。

そうやってロックバンドのメンバーは少し特別な存在であり、自分はそれを受け入れるのだという判断を繰り返しているうちに、CDの中で表現される作品の世界とロックバンドのメンバーが存在とが、近しいものなんじゃないかという気がしてきていました。4thアルバム『生活』を作った宮本浩次は自部屋で常に死と向き合いながらのたうちまわっていると思っていたし、銀杏BOYZ峯田和伸はどうしようもなく自分をもてあました童貞で、自分の中の爆発をドラムセットに飛び込んだりロックナンバーを絶唱しなければ消化できない不器用な男だと思っていました。そこに疑問を持つ必要がなかった。

でも四十に近づくにつれ、そんなわけないかと気づき始めました。ヒロジは『生活』作ってた当時も家族団らんの中であたたかい食事を囲んでいたと知ったし、ミネタが自分を表現し周囲を幸せにするためにロックナンバーの絶唱以外にも方法を持つ頭のいい人だとわかってきた。自分の中で作ったイメージを自分でひとつずつ否定していくにつれて、音楽作品と表現者を一体化させたり、過度の期待を持つことに居心地の悪さが出てきた。そして、アルバム全曲を使ってロックバンドのメンバーが発信するメッセージを全身で受け止めようとすることにくたびれてしまった、ということもありました。

そんなことを繰り返すうちに、ロックバンドの紡ぐ音楽を「ロキノン的解釈」で受け止めなくても、刺激的で飽きのこないアイドルポップスが周囲にあることに気がつきます。それらのCD作品のメッセージは、アイドルたち本人とイコールで一体化させる必要がないのです。「ロキノン的解釈」をもって自分がなぜこのCDを愛しているのか説明する必要がない。こりゃ楽だ、楽で楽しい……と思ってしまったとしても、そこに疑問がないような気がしませんか。

「全部入り」なだけでなく「楽で楽しい」。邦楽ロックファンがアイドルを選んでしまう理由はそんなところにあるように思います。
(以上追記終わり)

 

……。

ただ……なぜか、ハロプロには食指を伸ばしてくれないんですよね……。

……。

ここからは完全に個人の趣味主観丸出しの愚痴文章ですみません。

私は長いことハロー!プロジェクトが好きで、もう20年も、ハロプロを軸としながらいろんなアイドル楽曲を楽しんでいる者です。だからどうしてもハロプロばかりを贔屓目で見てしまう、ってことはわかっているつもりです。でも、音楽のクオリティとして、決してその他のアイドルを下回っている気がしないんです、ハロプロが。音楽的に面白い試みにいつも取り組もうとしているし、メンバーたちの教育もしっかりされているし、みんな可愛いし、何より作品に一定以上の狂気がある。そんじょそこらのアイドルの作品にひけをとっているとはどうしても思えないんです。贔屓目だとはわかっているんですけれども。

何千枚とロックのCDを持っていた私の信頼できる友人たちは、私なんかよりもずっと、音楽というものの選球眼に長けていると思う。そんな彼らがアイドルの曲は聞いているのに、ハロプロの曲を褒めているところを見たことがほとんどなくて……。それはなぜなのか。

贔屓目ついでに無理やり理由を見つけようとしたら、こうです。

 

ハロプロにはもう今更「自分で見つけた感」がないんです。新しいグループも新しいメンバーもそれなりには出てくるのですが、結局はハロプロっていう大きな歴史の一部分でしかない。なんか新しい、刺激的なグループが出てきたぞ!(そして俺はそれを見つけた!)という感動が得られないのではないでしょうか。CD何千枚も持っているこの俺が、今更ハロプロに? ……みたいなことがあるんじゃないかなぁ、と。勝手な想像ですが。

アイドルの曲を好んで何十年も聴いてる自分としては、たまには自分の選んだ好きな曲をサークルの外側からもほめられたい。今、それがしやすくなっている状況のはずなのになぁ、という思いなのでした。

 
でも……いいです。だいぶ下火にはなったものの、冬の時代と呼ばれたあの頃よりはずっといい。たくさんの作品に出合えるようになったから。今更周囲の評価なんてあろうがなかろうが関係ないことだった、と思い直しました。だって、きっと十年後も、あなたが飽きてしまっても、私はアイドルの曲を喜んで聴いているだろうから。もういいんです。

長文に最後までおつきあいいただきしてありがとうございました。

 
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と、こんな感じのエントリでした(http://timsogo.com/jpopfan_idol/)。
このエントリに思いのほか反応があって嬉しくてこっそりtogetterにまとめていました。
https://togetter.com/li/1111117
やっぱり俺の零細ブログなんかに載せるのではなく、注目度の高い場所に載せた方が全然読んでもらえるし、反応も得られるのだなぁと感心しました。
 
たまにはこんな感じで匿名でエントリを公開して、反応がよかった時だけ「実はあれ、書いたの俺」ってやりたいなと思います。(2018.01.01)