傀儡音楽

かいらいおんがく

一流のアイドル・二流のアイドルの境界線

アイドルに一流・二流の差があるとして、その判断基準は何だろう? 認知度、イベント集客数、CDデビュー済みか否か、メジャー/マイナー、作品数……。明確ではなくてもひとつの指標であることは間違いない。俺がかなり重要視しているのが「本人たちの意識」だ。一流二流を決めるのは本人たちではないが、本人たちの意識ひとつで「一流でいることも可能なのにあっさり二流に自分を落とす」という状況になりえる、と思っている。
俺は先輩諸兄に比べればほとんど現場に行かない在宅派だが、コンサートやイベントのステージで「この子達は二流だな」と感じる時がある。歌の途中に、ファンの行動に反応している時だ。
ファンは大事だ。ファンへの感謝をあらわすことも大事だ。イベントを多数行なうことで根強いファンを増やしていかなければならない駆け出しのアイドルならなおさらだ。ファンの問いかけに上手に返事をして、会場が盛り上がるシーンは多数ある。会場の一体感としても絶対に必要な要素だ。
でも歌っている最中に一部のファンに向けてアクションを起こすのは二流のやることだ、と思う。だいたい歌っている最中のアイドルに向かって自分だけレスがもらえるような行動をする(がっつく)ファンは、二流のファンだ。アイドルの質を貶めるさもしいファンだ。二流のファンのやることに反応するアイドルは、また二流だ。
トーク中はかまわない。その場の空気のやりとりもイベントの一部だから。目の前にいるファンを一切無視して進めるなら生でステージをやる意味がない。しかし歌っている時間は違う。ライブでの歌は、リハーサルでアイドル本人が歌っている時間とも、ファンが自宅でCDを聞いている時間とも違うものだ。めざすものは「再現・再生」ではなく「ライブ」だ。そのためにアイドルは生でパフォーマンスする(マイクを通して実際に歌声を出すかどうかではない)。生で、会場にいる全員に「歌」を届ける。その間、特定のファンだけを意識しては駄目なのだ。歌っている最中のアイドルが誰かのものになった瞬間、他のファンは白けるか、または「自分も独り占めしたい」と考える。会場の一体感は失われる。
BON-BON BLANCOサントスアンナは、歌っている間に特定のファンの問いかけに返事をするようなことは一切しなかった。トーク中にファンとやりとりすることはあっても、歌っている最中に特定のファンと一対一になったりしない。彼女の歌はライブという作品になり、一部の二流のファンによって汚されたりしないのだ。彼女は一流のアイドルである。少なくとも、ステージ上のサントスアンナは一流だ。何人たりとも彼女のステージを汚すことは許されない。
歌を大事にする。一回一回のライブの歌を作品として丁寧に扱う。作り上げる。そんな意識をどれだけのアイドルが持てるだろうか。そこにひとつの境界線がある、と俺は思っている。