傀儡音楽

かいらいおんがく

スルースキルズは素晴らしい(考え抜かれた企画に裏打ちされた2013年型アイドルのひとつの到達点)

スルースキルズって俺、予備知識がぜんぜん足りてなくて、TIF2013で初めて見て大笑いしたんです。すごい面白い! もう、「中肉中背」って書いてあるタスキ見て笑って、その上から亀甲縛りされてるの見てまた笑って、「影薄」って書いてあるタスキ見て笑って、背中に「鬼太郎×」って書いてあるの見て笑って……。出オチといえばそれまでなんですが、いろいろ良く考えられてるなぁと思って。プロデュースしてる田村淳ってばアタマいいな、すげえなって素直に感心してしまいました。もしかしたらニブンノゴ森本の入れ知恵なのかもしれない。わかんないけど。

彼女たち、「罵っていいアイドル」っていうキャッチコピーなわけですよ。私たちはこんなダメな特徴があるからどうぞ罵ってください。スルーする能力も持っていますからご安心を。どうぞ見下してください……ってことだと思うんですね。アイドルのテーマ付けも、手を変え品を変えいろいろやってきて、とうとうここまで来たかと。

ぶっちゃけテレビに出演させるの難しいと思います。すぐに「いじめを助長する」って指摘を受けますから。そういう想定でいろいろギリギリのところで調整してる。タスキに書いてある文字も例えば「デブ」とか「チビ」とかだと即アウトなわけですけど。「ポンコツ」とか「うざい」とかだと、まあそういうもんなのかい……みたいに思わせられるギリギリのライン。もちろん「それだって悪口だ!」と怒る人はいるわけですけども。

しかもね、よーく考えたら「罵っていいアイドル」って本人たちが言ってるからって罵っていいわけないんですよ。「殺してください」って言ってる人を殺して罪にならないかって言えばなるわけだから。被害者側が許可してたって加害者になっていいわけはないですよね。しかも周囲には、そういった罪をスルーしない人たちがたくさんいるわけで。度を越せば「OKって言われたからって罵ってるあなたはNG!」って必ず糾弾されるわけです。だから実際にはそんなに罵られない・罵れない。

曲もTwitterをテーマにした歌詞ばっかりってところも注目です。スルーするスキル、って意味でいえばそこに焦点をあてるのが大正解だと思うんです。Twitterの台頭によって世の中は、これほどまでにアイドルに直接声をかけやすくなったわけで。一段高い場所に居て当たり前だったアイドルが、スルーするスキルを持ってなきゃやってけない。一昨年より去年、去年より今年、それは必須能力として求められてるわけです。その点について歌ってて当然だと思います。

 

普通の束ものアイドルを初めて見るとするでしょ。この中だったら誰かなー(推しは誰にしようか)みたいなことは普通に考えると思います。もちろんずっと追いかけていればアイドルの人となりとか能力とかが見えてきて最初にみそめた子と違う子の推しになることも大いにあるわけですが、まあ初邂逅の時点ではそういうの抜きに、見た目で誰がいいか品定めするわけです。誰がいいかな……ってひとりひとり見ていく。その作業において、この子はこんな子、この子はこんな子……って脳内で無意識にレッテルを貼っていくんです。ぶっちゃけ、そうしていかないと覚えられないから。「この子は一番若そうだな」とか。「この子は○○って子に似てるな」とか。「この子は身体的特徴が○○だな」とか。ずらりと若い女の子が並んでいる時、自分で認識しやすくなるように、記号化していきますよね。多かれ少なかれ、みんなそういう作業を頭の中でやってると思います。その時、それこそ悪口になっちゃうような、直接伝えるのは憚られるような特徴で記憶しようとすることもあるでしょう。

そういった「脳内での記号化」が当たり前であってとしても、スルースキルズはそこに該当しないんです。軽々飛び越えちゃうんです。だって脳内の記号化を待たずとも、レッテルをタスキにしてわざわざ表示してるわけですから。「デブ」とか「チビ」とか不本意な記号化をされる前に「ポンコツ」とか「うざい」とかっていう、自分たちで用意したレッテルを突っ込んで封じちゃうことができるんです。画期的!

これだけたくさんのアイドルがいる中でね、レッテル付けが完了しているというのはものすごいアドバンテージだと思います。衣装で「担当は何色」なんてやってるより全然覚えやすいですから。今までのアイドルだってメガネをかけさせるとか、金髪にするとか、そういう記号化はやってきたんですけどね。でも全体の中の一部であることばかりだった。

しかもスルースキルズに関して言えば、掛け値なしに全員かわいいんです! そこが強いと思うんです。というのも、ぶっちゃけちゃいますと、かなりぶっちゃけちゃいますけど、地方アイドルとかで「……寄せ集めたなー」って感じのグループあるじゃないですか。「あれ? この子がセンター? 何か強い力が働いてる?」みたいな見た目の子(俺が呼ぶところのハズレ)も混じってる。場合によっちゃあ「混じってる」のレベルじゃなくて、ハズレ5人に平均点1人なんてグループだってあったりする。そんな子たちが、罵ってくださってOKなんつって何か書いたタスキをかけたところであなた罵れますか? ツッコミ入れられますか? 無理なんですよ。そんな状態誰も望んでない。スルースキルズがみんな可愛いからこそ、成立してるんです。

本当に良く考えられてるな、と。こんだけアイドルが無数に居る中埋もれないできっちり認識させる、凡庸なアイドルに飽いた好事家に新しい提案ができる、テレビに頼らずとも自分の場所を作れる……みたいなことを軽々とクリアしてるのがすごいなぁと。

もちろんどこまで行ってもカウンターでしかないので、AKBだのももクロだのみたいな天下の取り方はできないですよ? でも決勝トーナメントのレベルに残れる可能性は十分にある。アイドルのバラエティ感を紹介する特集にはきっと選ばれる。しかも一人ひとりにズームインしてみたら全員平均以上にかわいいわけですから安心感もある。「決勝トーナメントに残るためにどうするんだお前ら?」→「ダンスの練習を今までの2倍頑張ります!」みたいなやりとりしかさせられない運営に比べたら、いかに田村淳が抜きん出たプロデュース能力を持っているかわかる……ような気がしませんか。

いや、もちろん出オチって面は強いと思いますけどね……。俺もスルースキルズのライブに毎月足しげく通いたくなってるかと尋ねられたらまだそこまでハマってないわけですけどもね……。とにかく「考え抜かれた企画に裏打ちされた2013年型アイドルのひとつの到達点」、ってことは間違いない……ような気がしています。

ということで最後ちょっと尻すぼみになっちゃいましたけども。スルースキルズ。まだ見てない人は見てみて欲しいです。笑っちゃうから。