傀儡音楽

かいらいおんがく

モーニング娘。握手会イベント

 先月、モーニング娘。の最新シングル「色っぽい じれったい」を買った。CDに同封されている応募券で、抽選で握手会イベントに参加できるというので応募した。当選ハガキが届いた。青色のそっけないハガキだった。それを持って出かけた。イベントは今日だった。今日は本来(たまたまだが)色んな方から飲もう遊ぼうと誘っていただいていたはずだった。全部断って握手会に行った。

 会場は横浜ブリッツだった。初めて行ったのに初めてという気がしなかったのは他のブリッツやSHIBUYA AXに印象が似ているからだ。コンサート会場と違って、ファンの格好も普通だしあまり騒いでいなかった。18時開場19時開演だ。ブリッツの中ではエンドレスで「色っぽい じれったい」が繰り返されていた。好きな曲なんだがさすがに連続だとつらく感じた。カップリングの「愛と太陽に包まれて」も素晴らしい名曲なのだし、会場にいる全員がCDを買って聴いているはずなのだからかけてくれればいいのにと思った。

 ほとんど19時ぴったりにスタートした。モーニング娘。のこれまでの軌跡、といった感じのヒストリー映像が20分ほど流れた。その後メンバー登場。左から吉澤、紺野、道重、久住の順に並んでいた。

 今回のイベントは「東名阪握手サーキット」と題されて、1日でモーニングのメンバー10人が全国三箇所を移動するというイベントだった。ABCの3グループに分かれ、それぞれ順番は入れ替わりつつ東京名古屋大阪を移動するイベントだ。俺の参加したのはCグループで、今日は名古屋大阪出の握手会を済ませた上で、ここに来ているのだ。

 10分程度のトークの後、握手会が始まった。2階席から順番に列を作って握手をしていった。4人のメンバーの真横と対面にスタッフがついていて、握手をしながら歩くオタクどもをベルトコンベア式にさばいていた。「さばく」「こなす」という言葉がぴったりな気がした。一人のメンバーと握手していられるのは1秒程度だった。移動しろとスタッフが促すのに抗って手を離そうとしないオタクがあっけなく引き剥がされていく姿が痛々しかった。もちろんそれを腕組みして観ている俺も同じだった。

 久住が屈託なく笑っているのが印象的だった。握手をこなしながら笑顔でありがとうと言い、首をかしげたりお辞儀したりしていた。名古屋大阪と既に数千人と握手をしているはずだが、天真爛漫な表情を見せていた。やっぱり大物かもな、と思った。

 道重の前に立ったオタクどものうち、10人に1人くらいの割合は同じポーズをとった。両手を耳の上あたりにつけてVサインする道重の持ちネタ「うさちゃんピース」だ。笑顔の中に疲れの見える道重だったが、相手がうさちゃんピースをすると必ずうさちゃんピースで返していた。律儀でえらいと思った。ファンと自分の持ちネタを大事にする人だなと思った。

 俺の順番が回ってきた。昨日のMOK Radio内でも宣言していた通り、俺は既に発する言葉は決めてあった。対象は吉澤一人にしぼっていた。

 久住、道重との握手を終えると、俺の前に吉澤が居た。

吉澤「ありがとうございまーす」
俺 「来世で結婚してください!」
吉澤「わはっ(笑)……はい!」
俺 「来世で……(ベルトコンベアに引き剥がされる)」

 引き剥がされアクションの惰性で、紺野との握手などないみたいなものだった。

 こういったイベントにまで参加しようとする気持ち悪いファンならば、どうせならなんとか自分を売り込みたい、気の利いたことを他のファンと少しは違うということをアピールしたいと思う人も多いはずだ。俺の「来世で結婚してくださいネタ」は既に十年以上使い続けているカビの生えたネタなのだが、一番俺らしいと思った。吉澤にうつろな瞳で機械的に「ありがとうございます」と言われなくてよかった。あの「わはっ」は俺への笑い声だった。来世で吉澤は、いや俺こそは、あの求婚を覚えているだろうか。

 会場を後にした。俺の夏が終わった。イアフォンからは「愛と太陽に包まれて」が流れていた。

色っぽい じれったい(初回限定盤)
色っぽい じれったい(初回限定盤) [Limited Edition]