傀儡音楽

かいらいおんがく

16歳の女の子の恋との向き合い方(夕暮れ 恋の時間/スマイレージ)

スマイレージのアルバム『(2)スマイルセンセーション』に収録されている「夕暮れ 恋の時間」が出色の出来で本当に素晴らしい。当然2013年のハロプロ楽曲大賞の候補曲になることは請け合い。『(2)スマイルセンセーション』は超名盤で、候補曲が多数入っているわけですが。

「夕暮れ 恋の時間」は女の子が、家族の出かけた自分の家に彼氏を招く話なんですよね。とにかく部屋を片付けしなくちゃならなくて、でもこの後どうなっちゃうのか想像すると居ても立ってもいられなくなって、一人でわあわあ大騒ぎした後、意を決して彼氏を迎えに行く、そんな話。

最高に可愛い! それこそ短編の少女マンガの読後感ぐらいはある世界観ですよ。今日はやっぱりキャンセルしようかどうかさんざん迷って、最後の最後に鏡に向かって自信を持っていこうって腹をくくって、そんで出かける少女の姿。

もうすぐ着くころだし お迎えね
やっぱり駅で お茶して帰そうかな
そういう間に時間は迫ってる
ワチャワチャして来たな 深呼吸

勇気を 出してお迎え行く
私 よし! カワイイぞ!
(夕暮れ 恋の時間スマイレージ

ハロプロのほかに、こんなに「メロディを変えさせて歌う」っていうテクニックを意図的に盛り込んでくるJ-POPってあります? 俺、ないと思うんですよね。それが調子っぱずれで気持ち悪いかというとそうじゃない。一番で正しいメロディ聞いてるから、二番や三番でハズされてもそんなに嫌じゃない。むしろ気持ちいい。むしろ歌割りがまわってきたメンバーの特徴(たとえば熊井友理奈さんがちょっとフラット気味になるところとか)を上手に使っていて、本当に味わい深い。それがきっと、つんく♂が言うところのロックとかファンキーとかってことなんでしょうけど、とてもとても楽しい。「上手にメロディなぞったからレコーディング大成功」、じゃないんだろうな、って思えちゃう。そんなテクニック。

そんなテクニックが多用されてるんですよね、この「夕暮れ 恋の時間」は。サビの最初。「卒業アルバムとか」のメロディの部分。「ホントの本当のホント」のメロディの部分。メンバーひとりひとりの顔を思い浮かべながらこの部分を聴くのが最高に楽しい。あ、めいめいは音の高さ足りなくならない、歌うまいな、みたいな。

そういうのを楽しむ意味を含めて、初回限定盤のDVDに全員のソロバージョンを収録したのかもしれないなぁ、とか思ったり。

この「夕暮れ 恋の時間」、その次に収録されている「ねぇ 先輩」と対になってるんですよね。それはBerryz工房の「君の友達」と「グランドでも廊下でも目立つ君」とが対になった関係なのと同じように。

取説でも見ながら
キスをする気?
好きなのに 理由とか
あるわけないじゃん

ねぇ 先輩!
(ねぇ 先輩/スマイレージ

「夕暮れ 恋の時間」の方は自分一人じゃ処理できないぐらいドキドキしてしまう純情な女の子が主人公なのに対して、「ねぇ 先輩」の方は男らしく振る舞ってくれない彼氏にイライラしてしまうちょっとませた女の子が主人公。基本スタンスが受け身の女の子が勇気を出す話と、基本スタンスが攻めの女の子が強がってみせる話。セットなんです。

まったく逆方向のこの2曲の共通点は、どちらも「女の子の考えることが『自分の思い』だけで完結してしまっていること」。彼氏に対して「私のことどう思っているのだろう」「あの人はいつも私と考え方が違う」と不安に思っている。いろいろワチャワチャしても、最後は鏡に向かって自分で自分を説得して終わり。

これって男の子で言うところの「童貞こじらせかけ」の状態なんですよね。自分の気持ちと、自分のことどう思ってるんだろうのふたつしかなくて、自分+相手の未来が想像できていない。

恋人っていうのはいつかパートナーにならないと意味がなくて、自分+相手のコンビになったときに自分に何ができるのか、相手が自分に何を求めてくれるのかってことがイメージできなくちゃダメじゃないですか。「私はこう思ってる、相手は私を私の思ってる通りに愛してくれるかしら」で止まっていたら、いつまで経っても子供の恋愛のままなんですよね。

……ってそれがダメなんじゃなくて、子供の恋愛なんてそれで当たり前なんだからそれでいい。アイドルの歌詞世界で表現されるのは、そういうある意味で幼稚な、一方的な感情をいかに美しく表現するかが全て、みたいなところあるなぁ、と思って。

タイプの違う女の子たちの全く違う物語を描いて、それでいて16歳の女の子の恋との向き合い方はそれほど違いがないんだ、ということを並べて見せるところに、アルバム『(2)スマイルセンセーション』の名作っぷりが表わされてる気がするんですね。

(2) スマイルセンセーション (初回生産限定盤)

(2) スマイルセンセーション (初回生産限定盤)