傀儡音楽

かいらいおんがく

スマイレージ小川さん前田さん脱退を受けて妄想する

2011年はスマイレージにとって激動の年でした。小川紗季さんが辞め、新メンバーが追加され、前田憂佳さんが辞めた。俺はそれを、2010年の俗に言う「焼肉事件」がそもそも原因だと決め付けています。俺の勝手な、全くの想像、妄想です。俺の妄想では、この話は(1)ハロプロのメンバーとして禁じられていることを犯した→(2)禁を犯したメンバーにはペナルティが課せられた→(3)一部のメンバーは課せられたペナルティに不満があったし、そもそも禁止されていることに耐えられなくなった、という三段階によるものだったと思っています。

(1)ハロプロのメンバーとして禁じられていることを犯した

実は俺、あまり熱心に2ちゃんねるを見ていなくて「焼肉事件」というのがどんなトラブルだったのか知らないんです。スマイレージのメンバーが、一部の熱心な(そしてメンバーと年齢のそう遠くない)ファンと、アイドルとファンという間柄を越えて一緒に焼肉を食べに行く程度に仲良くなった事象があった、というような話だったと思います。正直その内容や真偽なんて全然どうでもいいです。それはとにかく「(1)ハロプロのメンバーとして禁じられていることを犯した」ということでした。たぶん、そういう何かが起こって、それが発端になりました。

(2)禁を犯したメンバーにはペナルティが課せられる

ハロプロには「(2)禁を犯したメンバーにはペナルティが課せられる」というルールがあります。もっともわかりやすいペナルティが脱退です。卒業のセレモニーを与えられず、所属グループから抜けさせられる。その上でその日まで行なわれてきた歌手としての活動に制限がかかります。歌のステージが与えられなくなったり、与えられても演歌の曲で営業をさせられたり。特に写真週刊誌などで明確に報道された場合、一部の例外を除いてほとんど全てこのペナルティが与えられてきました。逆に報道されなかった場合はお咎めなしか、お咎めが我々ファンにはわからないレベルで済まされるかどちらかになるようです。「焼肉事件」の場合には、明確な報道に至らなかったんだと思います(不勉強ですみません)。
ところが──スマイレージのメンバーに事務所の人間が事情を尋ねてみたところ、事実の部分があったりとか、本人たちに反省の色が見えない、なんてことがあったんじゃないでしょうか。由々しき問題です。事務所はスマイレージのメンバーに、「断髪」というペナルティを与えます。シングル「ショートカット」のプロモーションと称して。

ショートカット【通常盤】

ショートカット【通常盤】

「ショートカット」にはこんな歌詞が出てきます。

いっぱいやんちゃして
いっぱい学んで
失敗したってくじけないもん
怖いことが一個
あるとしたら それは
この若さの パワーかも

「ペナルティの為に長かった髪を強制的に切ることにしたから、ショートカットをテーマにした曲を書いてくれ」と事務所から指示を出されたつんく♂Pが「若い女の子の、自分の恋愛(に似た感情)につい身を任せてルールを侵してしまう若さのパワー」をテーマに歌詞を書いたものだ……と言われたらそう読めてしまいます。
実際にスマイレージのメンバーが断髪を告げられ、実際にカットされる様子はアップフロントの提供するテレビ番組で紹介されたわけですが、その時の前田さんの嫌がり方には、それこそテレビ向けに切り貼りに苦心した後であっても、十分に伝わってくる強さがありました。
ペナルティは断髪だけにとどまらず、次のシングルでブタの格好をさせられるというおまけつきでした。アイドルがブタの格好をさせられて、ジャケット写真でブタ鼻に顔を隠されるなんて、想像を絶するような辱めではないでしょうか。
事務所はルール違反を絶対に許しません。そうしなければ、別のメンバーに、年下のメンバーに示しがつかないからです。断固とした態度が事務所の強大さを表します。断髪とブタの格好のふたつが、「(2)禁を犯したメンバーにはペナルティが課せられ」たものでした。

(3)一部のメンバーは課せられたペナルティに不満があったし、そもそも禁止されていることに耐えられなくなった

「焼肉事件」がインターネットで話題になっていることを、メンバーは知っていたと思います。アイドル歌謡曲界隈が「アイドル戦国時代」的な様相を呈していることを知るのと同じように、本人たちがインターネットを直接閲覧して知っていたと思います。だから「場合によっては脱退させられちゃうかもな」と思っていたかもしれません。でも事務所は「断髪とブタの格好」で済ませた。この時小川さんと前田さんの中に「覚悟をしていたのに肩透かしを食らった」みたいな気持ちが芽生えていたとしても不思議ではありません。むしろ既に「脱退になったら、今までできなかったあれもしよう、これもしよう」という想像を働かせていたかもしれません。
ハロプロのメンバーとして在籍し続けて、あるいは幸せな卒業セレモニーを終えてソロになって、一流の芸能人として活躍できる人はほんの一握りです。矢口さんのような大成功例は極めて極めてまれ、全盛期時代のモーニング娘。のセンターを張っていたあの人が今は結構ヒマそう、みたいな例はたくさんあります。一度は脱退を覚悟した後、断髪とブタまで我慢させられて、頑張って在籍し続けて……その後彼女たちは何を、誰を目指したいと思ったでしょうか。レコード大賞を獲ったら、紅白歌合戦に出たら、テレビで冠番組を持ったら、お金をたくさんもらったら……それで満足でしょうか? アイドルを職業にする多くの女の子は満足だと思います。でも、スマイレージのメンバーにとって、一世を風靡した、歴史に君臨し一生揺らぐことのない栄華を極めた先輩が、現在それほど活躍していないことを知っています。だってアイドルなんて、十代から二十代の、最も輝く代わりに強烈に短い時間を売りにする商売なのですから。しかも彼女たちは他のアイドルの女の子たちが夢見るような体験──既にアリーナクラスの大会場に満員の観客が、自分たちの歌に酔いしれる姿は体験しています。自分たちの最も美しい瞬間を封じ込めた作品もたくさん残してもらっています。
いつまでもアイドル歌手では居られないことは明白。ある人はアナウンサーを目指し、ある人は舞台女優を目指し、ある人はテレビドラマの女優を目指します。その方が長く自分を愛すことができ、ファンから愛してもらえそうだからです。でもそれらの職業にも興味がわかなかったら、5年先10年先が楽しくなさそうです。だったら、何故厳しいルールを守る必要があるのでしょうか? 何故辱めを受けなければならないのでしょうか。彼女たちが「自主退学」という選択をとったことも、現代っ子的ではあるけれども理にかなっていて納得できることのように思います。アイドルさえやめれば厳しいルールから解放されます。普通の女の子に戻れば、それこそ好きな男の子と焼肉を食べに行くことに何の問題もないのです。むしろモテモテでしょう。「こんなに楽しいのに何故やめないの!」と思っているかもしれません。「(3)一部のメンバーは課せられたペナルティに不満があったし、そもそも禁止されていることに耐えられなくなった」のも、至極真っ当のように思います。
奇しくもつんく♂Pはシングル「ショートカット」の最後をこんな歌詞で締めくくります。

そんで出来るならば
やっぱあいつと腕を組んで
世界中を旅したい

小川さんが辞めると言い出したのは事務所にとって最初の誤算だった思います。小川さんはエッグの頃から期待されて、それまでのほとんどのシングルの「締め」を担当させられるくらいつんく♂Pに認められており、他のメンバーより早く単独での活動もしていたこと等から考えても、あのタイミングで辞められると思っていなかった。断髪とブタの辱めで懲りてちょっとは真面目にやるだろうぐらいに思っていたはずです。小川さんの意思は固く、他のハロプロメンバーに示しをつけるためにも断固とした態度を取らざるを得なかった。卒業公演で一儲けすることもできなかった。
そして前田さんも辞めると言い出した。スマイレージの人気の半分を背負っていた前田さんが、です。同時期に行なっていた追加メンバーオーディションの一連の流れで動いている中、やっぱり「辞めたきゃ辞めろ、事務所側は揺るがないよ」というやせ我慢を貫くため、またまた卒業公演をビジネスにすることもできないまま終わってしまった。それが2011年12月31日だった。そんな顛末だったように思います。繰り返しますが完全に俺の妄想です。


この事件の一連の顛末を受けて、我々ファンはどうすればよいでしょうか。アイドルの活動なんて、何ん時突然終了させられてもおかしくないものです。一つ一つの現場を、一つ一つの作品を一期一会と思って大事にしていく……なんて言うのは当たり前過ぎる話なんでしょうね。
俺の提案は、インターネットとの付き合い方です。アイドル本人も2ちゃんねるを見ていて当たり前、という前提で、もう少し書き込みを自制してはいかがでしょうか……って無理かなぁ。ファンやアンチの考える有象無象が効率的に集まる場所があって、それを適宜アイドル本人が確認するのって、何も生まないように思うのですが。アイドルを付け回して情報をネットに上げたり、その情報を面白がったり拡散したりすることも何も生みません。
ひとつ言えることは、アイドルとファンは地続きじゃないから面白いってことです。ステージの上に居て、高さの違う場所、垣根の向こう側で踊ってくれるからこそアイドルなんです。ファンもアイドルも、その境界を軽々しく越えようとすべきではない。その境界が曖昧になった現代だからこそ焼肉事件とその後のごたごたは起こったし、アイドル本人が夢でなく現実を、未来の輝きじゃなくて現在の幸せを優先するようになってしまったんだ、って思います。それはたぶん、あっていると思います。